
近代史の専門家
坂野先生は、幕末から昭和に至る政治ひいては日本社会の変容について研究されている近代日本政治史の専門家です。対談本の相手でもある田原総一朗氏をして「日本の近代史を語って、坂野潤治ほど面白い学者は他にいない」と言わしめるほど、坂野先生が解きほぐす歴史はスリリングな魅力に溢れています。2005年には、民主党による「日本の近現代史調査会」の会合に招かれ講義を担当されるなど、政治の舞台にもその影響力は及んでいます。
「柔の構造」とは
2010年1月、講談社現代新書より「明治維新 1858-1881」という著作が刊行されました。執筆者は、坂野先生と開発経済学を専門とされる大野健一教授。ヨーク大学で行われた「開発における指導者とエリート」研究プロジェクト提出論文を大幅に加筆した日本語版として、このたび新書にまとめられたとのことです。明治の日本を含む途上国の開発政策を比較する研究において、二人の共同執筆者は、1858年から1881年の時期における日本社会の構造に注目されています。
明治維新は、藩閥政府による独裁的な政治体制によって近代化へと邁進した「変革期」として、その後東アジア諸国でみられた開発独裁主義の原型と捉えられてきました。そのような通説に異を唱えることから本書の主張は始まります。幕末維新期は、各藩及び政治指導者たちが複数の国家目標を掲げ、互いに連携したり、敵対したり、あるいは目標を次々に変えるなど、複雑な政治闘争を繰り広げた時代であり、独裁者もしくは独裁的な政党によって抑圧的な開発が推進された東アジア諸国の事例とは一線を画する、とおっしゃるのです。当時の政治闘争の複雑さは、指導者の節操のなさや政局の混乱からくる複雑さではなく、むしろ非常に質の高いリーダーシップや組織行動が発揮された結果であり、世界史に類をみない長所として捉え直すことができるというのがお二人の主張です。複数の目標を達成するために、状況に応じて、リーダーやグループ、政策等、各要素の組み合わせをめまぐるしく入れ替え、大きな混乱や決定的な分裂を生じさせることなく変革を実現することのできた当時の社会の有り様を、お二人は「柔の構造」と名付けています。
リーダーシップと組織
坂野先生は、「未完の明治維新(筑摩書房)」でも、「富国」(大久保利通の殖産興業)、「強兵」(西郷隆盛)、「憲法政治への移行」(木戸孝允)、「民撰議院の設立」(板垣退助)の四つの目標がせめぎ合い、新しい社会が創られていく様を描かれています。諸権力の交錯を構造として捉え、各藩及び指導者が備えた機能・能力の複数性やその有効性を分析し、明治維新の新たな意義を提示される先生の試みは、リーダーシップ論や組織論、あるいは経営論という観点においても、未来を模索する上で非常に有益な示唆を与えてくださるものと考えます。特に多義性や可変性を兼ね備えた維新期のリーダーシップは、外的・内的要因による変容に対して柔軟に、かつ素早く対応しなければならない現代の企業活動にとっても参考にすべき点が多々あると思われます。
坂野先生が専門とされている近代史は、現代の日本社会が形づくられるに至ったその背景にくまなく視線を送ろうとする学問でもあります。私たちはどこからきて、どこに向かおうとしているのか、私たちは私たちの近過去についてどこまで適切な知識を得ているのか、坂野先生のお話を伺いながら改めて想いを巡らせてみるのはいかがでしょうか。
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センチュリーサロンのご案内
日時 :6月8日(火)7:00 p.m.~
ご予約:3213-1711
参加費:5,000円 (税サ込み・お飲物・ビュッフェ料理)
概要 :7:00 p.m. 講演 8:00 p.m. パーティー(着席)
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